まわれアザラシ、棍棒よけて。

公演の宣伝用ブログ 兼 雑記

『良くてフロリダ、あるいはテキサス。』抜粋

2014年『良くてフロリダ、あるいはテキサス。』 抜粋+没シーン

 

抜粋ですが、15000字越え。

なーがいよ。 

 

★☆★☆

 

 

 

弟 あのね、そうやって恥ずかしいことばっか言ってるけど、それ自分で言ってんじゃないんだよ、躁だよ、

姉 くんなよ!

弟 躁がさ、ねぇちゃんの頭に働きかけて、恥ずかしいこと言わせてるんだよ。ほら。薬飲まないと、ほら、だから、治さないとダメなんだよ、

姉 いやでもでも! 恥ずかしくなかったら、あたしじゃなくないみたいな。なんか普通とかあたしじゃなくないみたいな。

弟 普通でいいの、普通で、それがちょうどいいの。

姉 いらない!

弟 はい、(薬)普通、普通になろう。

姉 そんなの偽物だ! そんなので治しても! 人を普通にする薬なんてな、あっちゃいけないよ!

弟 前もそうだったけど後悔するよ。

姉 しないかもしんないじゃん! あたしがあたしの体信じて何が悪いの!?

弟 わかったよ。がんばれ。僕勉強してる。

姉 待てよ弟。

 

 

姉 ひとりに、すんなよ!!

弟 あのさ、おれが受験生って知ってるよね

姉 え!?

弟 受験の、大切さ、…しらないよね。

姉 ああ、しらねぇさ、だって必要ねぇから。

弟 必要なんだよ、ねぇちゃんみたいになりたくないんだよおれ。

姉 いいじゃん。遊んだらいいじゃん。いぇー。

弟 遊ばないよ、あのね、受験してさ、進学してさ、それで働きたいんだよ、

姉 あーそう? そう! そうやってよくわかんないのに受験して、よくわかんないうちに社会に組み込まれてんだ。

弟 ねぇちゃんよりいいよ。

姉 あたしは自分の意志を持って動いてねぇから。選択してるから、社会に組み込まれねぇんだよ。

弟 ねぇちゃん、

姉 やめろ! 受験とかやめろ! よくわかんないのに体制側につくな! 家にいろ! ほら、ゲームをやろう。ゲーム。ほら、セッティングしろ。

弟 早くうつに替わってくれないかなぁ。

 

 

姉 コントローラ持てるの? 物理的に。

赤穂浪士 ・・・・。   

 

   赤穂浪士、コントローラ握る。

 

赤穂浪士 ……持てました。

姉 えーちょっと触っていい?

赤穂浪士 ええ!?

 

   姉、赤穂浪士を触る。

 

姉 温かいんだけど?

赤穂浪士 だって、人間の幽霊ですから。冷蔵庫の幽霊じゃないんです。

姉 なんなの? お化けって。 

赤穂浪士 なんなんでしょうね、わかんないんですけど。その、一念だけで、存在してるんですよ。

姉 一念、ってなに?

赤穂浪士 かたき討ちです。

姉 へぇ。

赤穂浪士 もう一直線なんすよ。だぁーっと。

姉 じゃあ、ゲームとかやんないか。

赤穂浪士 ああっ、や! ちょっと待ってください。

姉 やんの?

赤穂浪士 あの、これ複雑なんですけど、あの、なんでしょう、複数なんですよ、ほら、見えない? あたししか見えないのか、

姉 ん?

赤穂浪士 じつは、ここに40……47人、居るんですけど、その47人のうちの一人ぐらいは、「なんだこいつ? 馬鹿馬鹿しいなぁ」と言っているメンバーもいれば、あなたの後ろぐらいに、「なんだろこの? きかい、すごい、ちょっとやってみたい!」なメンバーも、いるんですよ、そういうのが全部集まって同居しているのが、あたしなんですよ。

姉 ふーん。

赤穂浪士 わかりました? 今の。

姉 わかるよ、あたしも複数だから。

赤穂浪士 え、そうなんですか。え?

姉 ああ、今死んでるけどな、ましな方は。

赤穂浪士 死んでいるの!? あなた。

姉 心が、ね。

赤穂浪士 すごい、仲間いたぁー。よかったぁ。じゃあ、あなたも幕府に?

姉 しらないよ、まぁでも、幕府は嫌い。

赤穂浪士 (握手を求める)いやー嬉しい、超うれしい、記念に、記念にゲームしましょう。

姉 記念? 普通にやろうよ。

赤穂浪士 え記念! あ、私に勝ったら一緒に写真取ってもあげてもいいですよ。

姉 はぁ?

赤穂浪士 記念ですよ、これ(ゲーム)一緒に持って、

姉 絶対ヤだ、おばけと写るとか、

赤穂浪士 いいじゃないすか、

姉 なに浮かれてんの?

赤穂浪士 いやいやいや。

姉 へらへらすんなよ、歯を見せるな。

赤穂浪士 やってみたかったんですよぉ。ふへへへ……わからない。

姉 適当でいいよ、討ち入りと一緒だよ一緒。

赤穂浪士 まじっすか。やってみますね、ちょ、むず、敵討ちよりむずいっすよこれ。

姉 ・・・・。

赤穂浪士 あ、わかってきた、おすんですねこれ、で、あれが動くと、うぉ燃えてきた、はっはっは、え、これ北辰一刀流ですよね!? 今の動き皆伝超えてる、こんな簡単に皆殺しにできるなんて、勉強になります、でも、敵討ちより楽しいっすよこれ、まずいっすこれ、楽しい!

姉 それ絶対最初だけだから。

赤穂浪士 いや絶対ずっと、未来永劫楽しいですよこれ。素晴らしい。

姉 わかるよ、あたしも経験あるから、楽しいよねゲームはね。

赤穂浪士 はい。

姉 でもね、もうすぐ虚無来ちゃうからさ。

赤穂浪士 虚無?

姉 日が沈むとさ、くんだよ、どよーんとしたやつがさ。

 

 

兄 俺には7人の兄がいた。

  父の敵を討つため、兄はみんな、刀の腕を磨いた。

  しかし、敵もさるもので、兄が一人切るたびに、

  兄を一人切った。

 

   その、情景。など。

 

兄 俺には仇が残らなかった。兄弟の数に救われた。

  俺は長男だ。生き残ってしまったからには。 

 

   斎藤、登場。

 

斎藤 ペディグリー赤穂藩。この地区は、あの一件以来、そう呼ばれている。大変名誉なことである。

兄 ペディグリー赤穂藩。もつ鍋の一件の?

斎藤 そうだ。肉は全部お犬様に召し上がっていただいたそうだが、愚かな魂はまだ彷徨っている。

兄 それが赤穂浪士だと?

斎藤 そうだ。

兄 対策は?

斎藤 人柱が必要だ。

兄 犬柱じゃダメっすか? もともと犬が、買った恨みなら。

斎藤 ふざけるなぁ! この畜生。

兄 え?

斎藤 この畜生が。お犬様に謝れ。

兄 だって、いまの将軍は人間なんでしょ。

斎藤 お犬様に謝れ。人間め!

兄 え? 

斎藤 きさまー! ペディグられたいのか!

兄 え?

斉藤 ペディグられたいのか?

兄 ・・・・え、いや、です。

斉藤 わん。

兄 え?

斎藤 わんわん。

兄 ごめんなさい

斎藤 わんわんわんわん。

兄 え? だから、ごめんなさい。

斎藤 わんわんわんわんわんわんわんわん。

兄 ・・・・もしもし。

嫁 あら、あなた、おつかれさま。

斉藤 私たちは期待してる。

兄 もう限界。

斉藤 いつの日か、君がお父上のような、立派な侍になることを。

兄 今の職場じゃ言葉が通じないんだ。

 

 

  燃えている町と町をつないで行くと、遥か向こう、幕府の城に続いている。

  

弟 森は? 森は大丈夫ですか?

長老「・・・・。」

弟 あ、うちは大丈夫でしょうか。

長老「風向き次第だ、この辺の風は気性が荒くない、明日立つなら問題ないだろう」

 

  赤穂浪士、登場する。

  ふらふらと炎の方へ行く途中で、弟と目が合う。去る。

 

弟 あれは、

嫁 おーい。帰るよ。

 

  嫁、登場。

 

弟 姉上。なんだ、夢か。

嫁 うん。

弟 だって姉上、本当だったらこんなとこまで歩けないもんね。

嫁 うん。さあ、降りて、もうすぐ朝が来る。夢とはいえ、怪我するといけないから慎重にね。

弟 大丈夫だよ、おれ、なれてるから。

嫁 ダメダメ、あたしちゃんと見てるから、ほら、しっかり、そこと、そこ掴んで。

弟 大丈夫だよ、ほら、

嫁 心配かけて。

弟 ごめん。でも、ほんとに大丈夫なんだよ。

 

   三人、結構楽しんでみる。

 

   流れてる映画について、鑑賞者によるコメンタリー

  (アドリブ例)

兄 あ、これ見た奴だよ。

姉 言うなよ。

兄 いま、ジョニーさ靴脱いだよ。

姉 しっ。

弟 これってさ、CG?

兄 ああ、このあとのね、トレーラー見ると、

姉 いうなっ!

弟 え、……いまのも、じっしゃ? 

兄 ……じゃ、そろそろ行くわ。

姉 行ってらっしゃい。

弟 ・・・・眠い。

姉 うん、おやすみ。

弟 寝ないよ、今寝たらね、起きられないから。二時間後にまたバイトがあるもん。

姉 そう。

弟 ……あ、菜園に水やらないと、

姉 やったげよっか。

弟 やめてよ!

姉 善意が無だわ。

弟 おれにもね、楽しみの一つや二つ必要なんだよ。

姉 ふーん。

弟 育ったらね、みんなで食べよう。ねぇちゃんも食べてもいいから。

姉 いや、それはいらないです。自家製とかちょっと。

弟 …後悔するから。

 

  弟、去る。

  姉、憑かれたように映画を見ている。「おぉー」ってかんじ。

  弟、戻る。

 

弟 姉上、兄上の仕事場見学してくるっていってたからさ、だから、二人が帰ってくる前に、ご飯出来てたら、なんか、すごく、暖かくない?

 

   姉、凛々しい顔で映画を見ている。

 

弟 え、おれが作るの!?

姉 頼んだ、

弟 でも、おれ、一時間しか寝れないよ。

姉 それも青春さ。

弟 労働だよ。

姉 四の五の言うなら、純文学にでも書きな。

 

 

「カフェ白頭鷲

   

   兄が、めちゃくちゃアメリカンなかかし(マスター)に面接されている。部屋にはもう一人、 めちゃくちゃアメリカンな格好をした、斉藤がいる。

 

マスター 20年前、ちょうど俺も同じ夢を見た、お前のその、ファミリーとともに新天地を手に入れようっていう、そういう真っ直ぐなピューリタニズムには覚えがある。

兄 はい。

マスター あれから20年、俺はアメリカには行けなかった。だから今はこの国をアメリカにするための種を蒔いてるんだ。

兄 はい。

マスター いわゆる一つの、ピルグリムさ。だが、心はいつでもあの穏やかなワイオミングに。

兄 はい。

マスター うちは新しいスタイルのティーショップ。今までの出会い系メインの茶屋とは違う。女はセルフサービス。代わりに味は保証するぜ。最高のティーを出す店さ。

兄 はい。

マスター お前は賛同するか、おれのスタイルに?

兄 はい。

マスター 採用。

兄 ありがとうございます。

マスター じゃあまず洗礼受けてもらおうかな?

兄 はい、え?

マスター ここは俺のアメリカだ。郷に入らば郷にしたがえ。英語で言うと?

兄 知りません。

マスター ウェルカムトゥ、…テキサス!

兄 うおー。

マスター リメンバー、Youはもう、武士じゃない。いわゆる一つの、神の尖兵だ。ひざまづけ。

兄 (ひざまづく)あの、今って時給発生してるんですかね?

マスター (斎藤に)ホーリーウォータ急いで、いわゆる一つのホーリウォータ。特上で! ピンクのボトル!

 

   兄、斎藤から洗礼を受ける。ぴちゃぴちゃ。

 

兄 それって、僕の給料から引かれたりしませんよね!?(濡れながら)あ、並で、並でお願いします! ・・・・あれ? 

斎藤 あっ。

マスター これでもう大丈夫さ、安心しろ。俺たちの行き先は、必ず、必ず、栄光に続いてるぜ、俺がお前をぜってぇ導いてやる、アメリカ浄土に。ゴッドブレスユーアメーリカッ。アメリカ式のナムアミダブツを、唯物論で凝り固まった、お前のハートに叩き込んでやるぜ!

 

   唯物論を否定するかようにお化けが現れる。

 

赤穂浪士 ゲームは? ないんですか?

姉 埋めた。

赤穂浪士 なぜ?

姉 勢い?

赤穂浪士 悲しい。

 

兄 斎藤さん、じゃないっすか。

斎藤 お前は、

マスター ピルグリム1号! 来い。

 

   物陰? 的なところで。

 

斎藤 はい!

マスター わかってきたか?

斉藤 はい!

マスター 前の上司のことは忘れろ。

斎藤 はい!

マスター 神はたしかに、アダムの肋骨から、お前をこしらえてくださった。

斉藤 はい!

マスター 今日から俺のこと、アダムだと思ってもいいよ。

斉藤 はい! アダム。

 

   斉藤、かいがいしく、アダム(かかし)の世話を焼く。

 

斉藤 もう一拭きですか?

アダム ああ。

斉藤 もう一拭き?

アダム もっとだ。

斎藤 はい! もう一拭きですかっ!

マダム ああ、お前は今どんどんヘヴンに近づいている。いや、ヘヴンの方が、お前のところまで、おりてきてくださってるんだ。ああ、あああ、あああああーーー! ヘヴン!

 

   アダムの体からだらしなく聖水が吹き出す。

 

斉藤 (濡れながら)あたし偽物じゃありませんよねー。ねぇ? ねぇ? ねぇ?

アダム ・・・・ふう。

斎藤 アダムにとって私ってなに? 大切ですか? アダム!

アダム 今のは、なかなか良かったよ。斎藤イヴ。

 

   嫁、登場。

 

アダム ウェルカムトゥテキサス!

斎藤 はい! うぇるかむとぅてきさす!

嫁 ・・・・。

斎藤 なんでしょう?

嫁 あの、新しいバイトの人が入ったって聞いたんですが?

斎藤 ピルグリム2号ですね。

嫁 えーと、はい、たぶん。

斎藤 ピルグリム2号! お前だよお前。

兄 ああ、いらっしゃいませ。

斎藤 ウェルカムトゥテキサス。

兄 はい、ウェルカス。あの、どうぞ、座って。

嫁 はい。

兄 新入りです。

嫁 ここで働くんですか。

兄 はい、なんだか景気がいいとこみたいです。

嫁 そっか。おすすめ一つくださいな。

兄 はい。

斎藤 待ってください。

嫁 はい?

斎藤 なんであなたは私を見ないんですか? ピルグリム2号も、なんで今出会ったばかりのお客様ばかり見るの?

兄 え?

斎藤 あたしにだって心があるのよ。

兄 斎藤センパイ、キャラ変わってません?

斎藤 キャラって何?

兄 いや。斎藤センパイは、キャラっすよ。

斎藤 あたし、キャラなの?

兄 いや、はい、いや、

斎藤 興味がないって訳ね。

アダムの声 ピルグリム1号!

斎藤 ほら、見ろ、あたしのがアダムに愛されてる。

兄 はぁ。

斎藤 ・・・・リメンバー、あたしはキャラじゃない。

 

   斎藤去る。

 

兄 おすすめ、もってくる。まだなにがおすすめかよくわかんないけど。

嫁 うん。ねぇ、あの子(赤穂浪士)もここで働いてるの?

兄 斎藤さん?

嫁 違うよ。

兄 客じゃないかなぁ。

  

   兄は奥に引っ込む。

   カウンターバーに立つ、赤穂浪士はいかしたサングラスをかけている。

   嫁、icレコーダーを起動する。

 

嫁 ハロー。

赤穂浪士 英語ですね。

嫁 英語よ。でも、問題は言葉じゃないの。

赤穂浪士 なるほど、何が目的です?

嫁 あたしはここがどんなとこか知りたいなぁ。あなた、みたところ、常連みたい。

赤穂浪士 さあどうでしょうね、ただ、かつてアメリカという国は、プレーリドッグという犬を絶滅させたそうです。尊敬に値する国だ。

嫁 それは何? アメリカン?

赤穂浪士 これは、犬のブラッドです。蒸留酒で割ってます。

嫁 うわー行き着くとこまで行き着いちゃったねぇ。

赤穂浪士 怨霊ですから。やー、素晴らしい店です。ここではあれ以来すっかり落ち目の犬を、使役し、労働させ、しまいにはパンで挟んで食料にする計画だそうです。エコですねー。さすがヒッピーを産んだ国だ。

嫁 なんか犬だけじゃない気がするんだよね、この店のクサさ。大丈夫かなぁ。

赤穂浪士 なにがです? 犬が血を流してるんです、他の血には目をつぶるのが大人というものでしょう。

嫁 あらあら、なんだか上手になっちゃって。

赤穂浪士 一番大切なものは忘れてません。武士としての、(ハート)。

嫁 なるほどー。

 

 

嫁 見たところ、悩みがありますね、あなた。

赤穂浪士 え、ないですよ。

嫁 え、手が震えてるよー。

赤穂浪士 47人居ますからね、中にはおじいちゃんも居ますよ。

嫁 犬の血がまずいからですよね。

赤穂浪士 美味しいに決まってるじゃないですか。

嫁 まずい理由を教えてやろう。

赤穂浪士 ・・・・。

嫁 まずそのださいグラサンを取りな。

赤穂浪士 お、おいしいもん、

嫁 あんた、成仏し損ねたでしょ。

赤穂浪士 え?

嫁 辛いよね、ごまかせないよね、そんなもの飲んでも。

赤穂浪士 え? え? い、いいんです、あなたこそ、こんなとこで、なにしてるんですか? なにしてるの! のろいなのに!

嫁 夢叶えてます。つーか叶ってる? 守ってるんです。勝ち組? いえぇー。

赤穂浪士 夢ならあたしの勝ちですよ! ええ、全然あたしの勝ちです、あたしの方がビッグですよ、なにせ47人の、もっともっといっぱいの夢ですから。

嫁 へぇーなに?

赤穂浪士 かたき討ち。

嫁 それって、たのしい?

赤穂浪士 楽しいですね! いや、楽しいとかじゃなくてですね、もう、もうもう、素晴らしいことなんですよ、世の中をね、正すっていうか、あるべき姿に、あるべき、あれ、だから、ゆ、め、というか、そうです、わかりますよね、あなたのはね、ゆめじゃない、無意味なんですよ、だって幸せなんでしょう! わたしのは、無意味じゃないんです、幸せじゃないから、47人だし、47人もいるんです、多いでしょう、ほとんど50ですよ、やっぱみんないろいろ辛かったこととか、なんか、なんか、ありましたけど、そりゃ犬のことが嫌いじゃないメンバーもいましたけど、47人の中には犬が好きだってメンバーもいましたよ、でも、メンバーが犬に殺されて、メンバーっていうかあたしは殺されたし、すっごい悔しかった、苦しみは、苦しみで返してやらないと、そう、あんたがやったことは無意味じゃなかったんだ! こんなにもあたしを苦しめた、そう! 笑ってごまかせるようなことじゃなかったんだって、忘れてしまえるようなものじゃなかったって、教えてやるためには、そう正義! 町だって燃やします、犬だって殺す、あたしの苦しみが、47人の、いや、ありとあらゆる苦しみが、意味のないことじゃなかったって、だって、犬死じゃないですか! 保健所ですか? 保健所は爆発しないといけないんです、犬を殺したことを忘れるなぁ! 違う、今、犬が、犬が入ってきちゃった、あっち行け! そう、保健所を増やすべきなんです、ガス室を、世界中にガス室を、それがあたしの夢です。

 

   嫁、時折り、せき込みながら聞く。

 

嫁 そう。

赤穂浪士 ・・・・。

 

   録音してる赤穂浪士のセリフを流す。

 

赤穂浪士 おばけ。

嫁 うん。

赤穂浪士 おばけだこれ。

嫁 お化けじゃないよ、これは機械。

 

嫁 あんたを救ってくれる素敵なお友達を紹介しましょう。この子です。

 

   姉のイメージ映像とか。すげぇダメなかんじ。ダルなかんじ。

 

赤穂浪士 無理ですよ。

嫁 いや、あなたを救ってくれるのはこの子しかいません、私を信じなさい。

赤穂浪士 信じません。

嫁 もうそんなまずいもの、飲まなくていいのよ。

赤穂浪士 私はもう、信じません。キリストもブッダ中二病無神論も、お化けはいるけど、神はいない(切り替わる)昔はね、昔はもっとすごかったんですよ、恨みをね、自分のだけじゃなくて、全部、拾って、世の中の、世界中の、全ての恨みがね、いつか、すべての敵を、打ち倒すところを、夢見てて、今でもいますけど、一人だけ。(切り替わる)ガス室!(〃)どうせすべての死は犬死なんです。(〃)あっはっは。敵を倒した途端、自分もまた敵になるんです。倍倍ゲーム。敵は消えない。争いはなくならない。(〃)だからそんなことがあたしとなんの関係があるんだー!(〃)ああ、ゲームしたいなぁ。(〃)にゃーにゃー(〃)助けてください。

 

姉 それ、虚無じゃん。

赤穂浪士 きょむ?

姉 あたしのレベルになると、日に3回は来るね。

赤穂浪士 どうするんですか?

姉 どうもしないけど。

赤穂浪士 ・・・・。

姉 冒険の旅に出よう。

赤穂浪士 ・・・・どうして。

姉 虚無を倒しに。

赤穂浪士 そんなもん、どこにいるんですか?

姉 わかんないからさ、情報を集めよう。

赤穂浪士 どこで?

姉 酒場で。

赤穂浪士 ああー、

姉 アイテム集めて。最強装備集めて、

赤穂浪士 そこには虚無しかないって、言ってたじゃないですか。

姉 じゃあ違うわ、ジョブチェンジしよう。

赤穂浪士 どの職業になっても一緒じゃないですか。

姉 あんた侍以外になったことあんの?

赤穂浪士 ・・・・。

姉 あたしも引きこもり以外になったことないけど。

 

   赤穂浪士、姉の手をとる。

 

赤穂浪士 行きましょう。

姉 えゲーム?

赤穂浪士 酒場。

姉 やだよー、外怖いもん。

赤穂浪士 手つないでていいですよ。

姉 やだ。生温いもん、あんたの手。

赤穂浪士 わたし、男だったこともあるんですよ。任せてください。

姉 いらんこというな。

 

 

   弟のバイト、発電所である。

   弟たちが働けば働くほど、辺りが明るくなる。

   弟は南米っぽい言葉に習熟しており、手振りとともに、喋る。

   スライドには日本語訳が映し出される。

 

弟 ホセェ、エルパッソ、ミゲェーラ テラコンダ マルメッ

 (以下適当にやれ)

 

   <字幕スーパー>

 

弟 「ちかごろ、ミゲルの奴をとんと見かけないが、奴さんどうしたんだい? ついにこの国にも馴染みの女(すけ)でもできたのか?」

ホセ 「・・・・。」

弟 「おいおいいくら掴まされたんだミゲルに? 確かに僕の肌は黄色いけど、心の中はみんなとおんなじ、コーヒー色さ。」

ホセ 「……ミゲルは、、、死んだ。」

 

   間。   

 

弟 「そうか……。」

ホセ「ミゲルは、父の待つ国へ帰った。」

弟 「……ミゲル。」

ホセ 「ミゲル……。」

弟 「踊りの上手なやつだった。」

ホセ 「やつはバンジョーをときどき歯で弾いた。」

弟 「生まれて初めて海を見たとき、涙を流したのはミゲルだっけ。」

ホセ 「生まれついてのリズム感。寄せては返す波のようだった」

弟 「豚肉を、親の仇のごとく嫌ってたミゲル。」

ホセ 「親父のことを、豚って呼んでたミゲル。」

弟 「豚に豚を食わせる日が楽しみだって」

ホセ「それは父親に豚を食わせるって意味かい…尋ねた僕にはにかんだ笑顔で、」

弟 「そいつは思いつかなかったな。」

ホセ 「破滅的な笑顔で、」

弟 「刹那的な笑顔で、」

二人 「ああ、ミゲル……!」

弟 「ミゲルの穴は俺が埋める。奴の分まで稼いでやる。」

ホセ 「ミゲルだけじゃない。みんなみんな太陽の国に言っちまった。」

弟 「なんだって? (名前を呼ぶたびに辺りが暗くなる)ロドリゲス、アレハンドロ、カルロス、ディエゴ、フィリペ、イグナシオ、ガルシア、マルケス、ルシアーノ、カピターノ、パブロ、みんなみんなどこへ行ったんだ?」

ホセ 「うっ」

   

   ホセ、倒れる。

 

弟 ホセェ?

ホセ 「俺はもうだめだ、シエスタなしで働きすぎた」

弟 「ゆっくり休め」

ホセ 「ああ。だが、今度はすこしばかり、永いシエスタになりそう、、、だ」

弟 ホセェー! ・・・・お前の分の給料は、無駄にはしない。うぉぉぉぉー! 

 

   弟信じられない能率で働く、すごく明るい。南米の音楽とかも聞こえてくる。

   ここは南米。

 

 

赤穂浪士 結婚とか興味あります?

姉 結婚ねぇ、ないかな。

赤穂浪士 そうですか。

姉 与えられる幸せって興味ないね。

赤穂浪士 引きこもりの言葉だとは思えないですね。

姉 金持ちになって世界を支配する。最近考えてるのは主にそれだね。

赤穂浪士 ビッグですねぇ、尊敬します、ちなみにどこに向かってるんですか?

姉 え?

赤穂浪士 え?

姉 あんたじゃないの?

赤穂浪士 えだって、

姉 あるわけないじゃん、家出たことないんだよ、何期待してるんだよ。

赤穂浪士 あーですよね。どうします?

姉 あ、ちょっとまって、

赤穂浪士 なんですか?

姉 いますっごい急に気持ちが暗い。

 

 

   「斎藤村」それっぽいBGM。

 

斎藤 つきました。実家です。

姉 いっぱいいる!

赤穂浪士 い、いぬが。

斎藤 ここは、斎藤村、斎藤たちが平和に暮らす最後の楽園です。わん!

斎藤2 わん!

斎藤3 わん!

斎藤 父です。母です。

斎藤たち にんげんだー、にんげんがいるぞー、うたげだー。

姉 三人しかいないように見えるけど?

斎藤 飢饉で、ほかの村人は、生肉になりました。

姉 え残酷。

斎藤 ええ、仕事を求めて都会に向かった私の姉も、今頃どうしていることやら。

姉 はぁ。

斎藤 姉は人一倍人間が好きで、どんな人間にも問答無用で懐いてしまうんです。

赤穂浪士 ちょっといいですか?

姉 なに?

赤穂浪士 ・・・・私としては皆殺しにするべきだと思います。

姉 嫌いじゃない、嫌いじゃないよそういう思考回路。でも、理由はなに?

赤穂浪士 敵だから。

姉 アウト。

赤穂浪士 なぜ?

姉 自分で言ってたじゃん、同じことしてどうすんの? 

赤穂浪士 わかってます。でも、殺したい。

姉 複数だもんね。わからんでもない。

斉藤 どうしたんですか?

赤穂浪士 あなたたちは、かつて、私の一族を食べましたね。

姉 ちょ、

斉藤2 えー?

斉藤3 うそー。

斉藤 ちょっと失礼しますね。一口。

赤穂浪士 ななな、あぁぁぁぁぁーーーっ!

 

   斉藤、赤穂浪士を一口食べる。

 

斉藤 ペディグリー赤穂藩…?

斉藤2 ペディグリー赤穂藩

斉藤3 ペディグリー赤穂藩!?

斉藤 うまかった。

斉藤2 覚えてる。

斉藤3 おかげで生き延びた。

斉藤 生き延びただけじゃない、一時は全てを支配した。

斉藤2 おかげで人間といっぱい遊べたなぁ。

斉藤3 人間でいっぱい遊べたなぁ。

斉藤 人間はね、エサをいっぱいくれた、

斉藤2 あの頃は良かった。

斉藤3 あの頃は良かったなぁ。

斉藤 もしかして、またエサをくれに来たんですか?

斉藤2 嬉しいなぁ。

斉藤3 嬉しいなぁ。

斉藤 わんわん。

斉藤2 わんわん。

斉藤3 わんわん。

姉 やべーすげー悪いやつらみたいに見えてきた。

赤穂浪士 はい。

姉 こいつ倒したら全て解決かなぁ。

赤穂浪士 ええ。

姉 あと一匹いるんだよね、

 

   斉藤ら、よってくる。

 

姉 うわぁ。寄んなよ。

赤穂浪士 ・・・・。

姉 こいつら、今は何食ってんだろ?

斉藤たち きゅーん。きゅーん。あたしたちは、人間が大好きなんです。

赤穂浪士 どうすればいいですか?

姉 あたしに聞くなよ、

赤穂浪士 だってこれ、だってこれ殺したら成仏できるの?

姉 しらないよ。

赤穂浪士 おかしいじゃないっすか。

姉 あたしわかんない。もう、帰りたい。

赤穂浪士 ・・・・。

姉 ゲームだと思えばいいんじゃないかな。悪を倒してさ、さっさとお家に帰ろうよ。

斉藤たち うぅ〜。

姉 あたしお腹減ったし、部屋が恋しいよぉ。

斉藤たち うぅ〜〜〜。

姉 兄上ー、姉上ー、お家に帰りたいよぉ。

 

   ゲームのような戦闘。

   無力なモンスターたちが次々と駆逐されていく。

 

赤穂浪士 ・・・・。

姉 後一匹残ってるらしいよ、それも殺す?

赤穂浪士 殺しません。

 

   斉藤たち起き上がる。

 

斉藤 楽しかった。

斉藤2 でもちょっといたかった。

斉藤 文句言うな、楽しかっただろ。

斉藤2 うん、ごめんなさい。

赤穂浪士 うん、ごめんなさい。おあいこだからね。

斉藤 また遊んでねおねぇちゃん。

斉藤3 何もしなかった方の、おねぇちゃんも、こんどまた遊ぼう。

姉 だから、ゲームは好きなんだ。何回でも、出来るし、この温(ぬる)さだよ。

赤穂浪士 帰りましょうか。

姉 うん。

斉藤 おねぇちゃんによろしくね。

斉藤2 じゃあねぇー

斉藤3 ばいばーい。

姉 ばいばい。

 

   一定の距離によって、斉藤たち豹変。

 

斉藤 バカめ! 

斉藤2 そんな甘い話ある筈がなかろうて!

斉藤3 ひと月ぶりのタンパク質じゃい

姉 嘘だろ! なんで一度逃がしたの?

斉藤 狩猟本能と満腹中枢を、共に満たすためさ。

斉藤2 一粒で二度おいしい。

斉藤3 レジャーと食事はセットでしょ。

斉藤 人はパンによってのみ生くるにあらず、犬もしかり。

斉藤2 与えられた飯ばかりじゃ、腹はふくれても胸はふくれねぇ。

斉藤3 おれたちは、三度の飯より、血を見るのがだいすき!

斉藤たち わぉーん。

 

   斉藤たちが、追ってくる。

 

姉 早く殺してよ赤穂浪士

赤穂浪士 ダメです。許すと決めたらとことん許すんです。

姉 なんで!

赤穂浪士 その方が楽しい。でしょ。きっと。

姉 楽しくないよ、命にかかってるもん。

赤穂浪士 あっちも命がかかってるんです。一ヶ月ぶりだって言ってた。

姉 石炭でも食ってろ。くそー。足が、足がヤバいよ、太ももが。

赤穂浪士 あははははは。

姉 止まると死ぬ、止まると死ぬけど、明日はぜったい筋肉痛だ!

 

 

兄 何してるの?

弟 …兄上?

兄 なんでここにいるんだよ?

弟 どうして兄上がここに?

兄 バイト。お前は?

弟 バイト。兄上はホワイトな仕事していると思ってたのに。

兄 ホワイト?

弟 こんなコーヒー色の仕事に手を染めちゃダメだよ。姉上がいるんだから。

兄 え、お前、手に土がついてるよ。菜園?……え、それがコーヒーってこと? 

弟 受験さえしていれば、こんなことには、でも、ミゲルともホセとも会えなかった。

兄 誰だよ。

斉藤 何をしている?

兄 ピルグリム斉藤先輩。

斉藤 ブルーカラー3028号。何しているの? 持ち場に戻りなさい。

アダム 奴隷どもよ。働け働け死ぬまで働け。

弟 プレジデント。俺たちはもう、十年分は働きました。給料をください。ミゲルの、ホセの、ロドリゲスの、家族に配りたいんです。

アダム そいつらの給料はすでに支払っている。

弟 なに?

アダム 人数分の棺桶、それがやつらのサラリーだ。

弟 てめぇ。

 

 

   姉、登場。

 

姉 ねぇ、赤穂浪士、ここどこ? え?

弟 ねぇちゃん? 

姉 あ、

弟 なんで? なんで走ってるの?

姉 止まると、あたし死ぬから、

弟 外出れるようになったんだ、なんか、涙でそう、ねぇ止まってよ、話しにくいよ。

姉 あの、たぶん、いま足がゾンビみたいになってて、本当はもう、死んでるんだけど、気づかせちゃいけないんだ、ゆっくりとさ、減速、そうしなきゃ腐るかも。それより、後ろに犬いない?

弟 いぬ?

姉 撒いたんだよ、ざまぁみろ、うおっ! いた! 斉藤!

斉藤 誰だお前? 洗礼前の名前で気安く呼ぶな!

姉 赤穂ちゃん? 成仏しちゃった? 赤穂ちゃん。

 

   赤穂浪士、登場。

 

赤穂浪士 ここです、ここです。

姉 いたぁ、よかったぁ。

赤穂浪士 あ、斉藤!

斉藤 だからその名で呼ぶな。誰なんだ!?

赤穂浪士 あたしは赤穂浪士

斉藤 ペディグリー赤穂藩、またの名を犬のエサか。

赤穂浪士 好きに言いなさい。

斉藤 アダムの邪魔をするなら、殺す。

姉 ふっふっふっふ、斉藤の扱いはな、もううちらちょっとしたもんだからね。やっておしまい。

赤穂浪士 (例)はい。どうぞ、わんわんわん、おておて、おかわり、ぐるぐるぐる。

 

   赤穂浪士、犬と同じように、斉藤をあやそうとする。

   斉藤、動じない。

 

赤穂浪士 なんで? 家族には通じたのに。

斉藤 あたしは犬じゃない、アダムの肋骨だ。

姉 え、でも犬だったよ、親戚一同犬だったよ。

斉藤 あんな、洞窟に住んでるような奴らと一緒にするな。洞窟の壁画に描かれちゃってるような連中と。

姉 でも、犬でしょ?

斉藤 違うんだよ、洗礼されたから、もう神の子だよ。

姉 え、でもでも、犬でしょ?

斉藤 犬じゃない。キャラでもない!

赤穂浪士 キャラ?

姉 なんでそんなムキになるの? 本当は犬だからじゃない?

斉藤 犬じゃない! 私は変わったんだ。ね、アダム? アダム? なんで肝心なときに無口なの? どうしたんですか? 電池切れですか?

 

   アダムを拭く。

 

斉藤 アダム、電源切れですか、くそう、お前らに負けてたまるか、あたしはね、あたしは、あたしは、今、最高に輝いているんだ。ねぇ、そうですよね、アダム、答えてくださいよ。(かかしの声で)イヴ。アダム? よかった、目が覚めたんですね。イヴ! アダム! イヴ! アダムー! 

姉 えぇ?

斎藤 なに見てんのよ? こっちにはアダムがついてんだよ、おらおら、頭が高いぞ「頭が高い」あたしはね、なんだ? あたしは、なんだ? あたしは、なんなんだぁー!?

 

   兄、目配せをする。

 

兄 でも斎藤さん、キャラとしては、すごい、好きでした、俺。

斉藤 はぁ?

兄 なんか、ねぇ、切れ味があって、あの、センパイっ! ペディグリー赤穂藩ってやつ…やってくださいよ。

斉藤 やらないよ。

姉 でも犬としては驚異的な賢さだよね。

赤穂浪士 なんか水準より高いですよね、知性。

弟 目が綺麗だ。

斉藤 そ、そんなこと、ないし。

兄 やってください、おれ大好きなんすよあれ。

斉藤 ぺ、やんないよ。

赤穂浪士 赤穂藩

兄 やってよ、

姉 え、なに? あたしも見たい。

弟 聞きたい。

斉藤 ぺ、ペディグリー赤穂藩

兄 おー。

斉藤 ペディグリー赤穂藩

 

   やんややんや。

 

斉藤 ペディグリー赤穂藩

兄 すげーいい。

   

   斉藤コール。

 

斉藤 ぺディグリー赤穂藩

 

   アダム、倒れる。姉、止まる。

 

斉藤 アダムー!

姉 止まっちゃった!

 

 

姉 ねぇ赤穂ちゃん、おんぶ。

赤穂浪士 いや。

姉 なんで、(弟に)おんぶしろ。…え?

弟 ・・・・ミゲル、ホセ。

 

   姉、生まれたての子鹿のように立ち、去る。

 

兄 まかないだけど、食う? なんか新鮮らしいっすよ。

弟 ロドリゲス?

兄 肉だよ。そんな名前じゃないよ。

弟 そうか、肉か。

兄 え?

弟 いや違う。

兄 え?

弟 兄上、これは肉じゃない土だよ。

兄 いや、肉だよ。よく見ろよ。

弟 土だ、俺には、わかってる、生きろって皆が言ってる。命が叫んでる。

兄 え?

弟 いただきます。……うぅ、うぅ。うまい。

兄 泣くほどうまい? よかった。

 

   弟、ひざまづく。南米の光が射す。

   かすかに聞こえるあのバンジョーの音は、たしかあのときミゲルが、

 

兄 え、大丈夫?

弟 …祈ってるんじゃない、疲れてるんだ、俺は働いた、これからも働くよ。

兄 よくわかんないけど、疲れてるなら家帰れよ。

 

 

   踊れない。

 

兄 ちょろいな、なんかもう、全部ちょろいな。

嫁 かかし、弱かったね。

兄 俺たちが強かったんじゃないの。

嫁 うん。そうだね。

兄 ねぇ。

嫁 なに?

兄 なぁんでもない。

嫁 なにそれ。ふふふ。

兄 踊ろうよ。

嫁 うん。

 

   動かない。

 

兄 じつは、おれ、踊りとか好きじゃない。

嫁 あたしも、全然わかんない。

兄 ふふふふ。

嫁 はははは。

兄 踊ろう。

嫁 踊ろう。

 

   踊る。

 

兄 楽しいね。

嫁 楽しいね。

兄 何か飲む?

嫁 ううん。

兄 なんか食う?

嫁 ううん。

兄 そっか。

嫁 うん。

兄 楽しいねぇ。

嫁 うん、帰ろうよ。

兄 わかった。帰ろう。

 

   兄、嫁をおんぶして去る。

 

姉 体動かすのって心底だるいよね。

弟 俺は好きだけどな。

姉 見るのは嫌いじゃないけど。

弟 ふーん。

姉 あの二人。なんで踊ってたんだろ?

斉藤 あこうはん。

 

嫁 ねぇ、

兄 うん?

嫁 降ろして、

兄 吐くの?

嫁 吐かないよ、今日はもう、絶対に吐かない。

 

  嫁。しっかりと立つ。

 

嫁 あたし、たぶん、今日死ぬ。

 

兄 え? なんで?

嫁 勘。北国の。

兄 しなないよ〜。

嫁 しなないかなぁ。

兄 しなないよー。

嫁 あたしさ、アメリカなんてどうでもいいんだ。

兄 …そうなの?

嫁 うん。

兄 おれも。

嫁 でも、どっか行きたいね。

兄 うん、行こうよ。

嫁 ふふふ。だめ。

兄 あいつらはあいつらで、やってけるさ。俺たちなんて、邪魔かも。

嫁 そうね。

兄 おれは、もし子供が、言ってもいい?

嫁 いいよ。

兄 もし、おれたちに、子供が出来たらね、出来たら、あれ、なんか思ってたんだけど、なんか、すっごい良いこと言えるような気がしたんだけど、ばかだなぁ。

嫁 なに?

兄 いやおれたちの子供は、絶対、ははは、難しい、親父って難しいね、そんで、あんなんなっちったのかな、親父は、裸になれなくて、でもどうでもいいよな、全部全部どうでもいいんだよ。

嫁 うん。

兄 なんでもない。なんでもない話がしたい。子供ができてもなんでもない話を、ずっとできたらさ、それがきっと、最高だ。

嫁 うん。(欠伸をする)

 

 

姉 ねぇさん。大丈夫?

嫁 ・・・・。

姉 ねぇ、起きて、

嫁 ・・・・うーん

姉 ねぇさん? 大丈夫? でも起きて、もし大丈夫そうだったら起きて。

嫁 何? お弁当? ミートボール?

姉 お弁当じゃないよ、まだ夜だもん。見て欲しいものがあるの。

 

嫁 ねむくて、死にそうなのよ。

姉 でも、ねぇさん。

嫁 ねむい。

姉 ねぇさん見てよこれ。じゃーん。

 

   姉、8ミリを見せる。

 

嫁 なにそれ?

姉 8ミリ。

嫁 どうしたの?

姉 買ったの。

嫁 ・・・・お金は?

姉 だ、大丈夫、た、貯めてたの、お小遣い。

嫁 お小遣い…。

姉 うん、それでね、それであの、映画、撮れるんだこれ。

嫁 へー。

姉 すごいよこれ、結構撮れるんだ。…大丈夫? 

嫁 大丈夫よ。そっか、じゃあ外、出れるようになったんだ? 

姉 大丈夫だった、なんかドキドキしたままだったら大丈夫だったんだよ、だから、これ武器、これ持って外に出る。これ買う前、映画見てて、やっぱ8ミリの。完ぺきだったの、まじサイコーな瞬間あったんだ。あたしが寝る前とかに考えてたこと、家で考えてたこと、そういうの、全部、全部、なんていうんだろ、正当化? 違う、なんだろ、最高にされた瞬間があったんだ、・・・・悔しかった、マジで悔しかった。全部あたしが思ってたことのハズなのに、誰よりもわかってるのにさ。

嫁 よかったねぇ。

姉 よくないよー。だから買ったの、今もふつふつわきあがってる。フィルム足りないもん。短すぎて。うちに金があったらなぁ。

嫁 我慢しなさいよ。

姉 できないよー。

嫁 でも仕方ないじゃない。

姉 できない。

嫁 あたしは、映画じゃなくてもそういうの、あるよ。

姉 うそー。

嫁 ほんとよ。

姉 ねぇさん、言っちゃ悪いけど、単調じゃない、生活。

嫁 うーん、そうかなぁ。

姉 寝て起きて、ご飯作って、寝て。

嫁 でもいいじゃない、

姉 ほんとに? ねぇさん、も映画みなよ、人生変わるよ、目覚めるかもよ。

嫁 あたしは眠いよ。

姉 あそっか、ごめんね、寝かしたげる。寝顔とっていい、出ようよ映画。

嫁 好きにしなさい。

姉 やったー、最高に可愛くとってあげる、最高に可愛いねぇさん。

嫁 ・・・・お金は返すのよ。

姉 …あたりまえじゃない。

嫁 ありがとう言っとくのよ。

姉 はいはい。

嫁 ・・・・。

姉 ねぇさん、……まま。まま。ねぇさん母親役ね。

嫁 ・・・・。

姉 あたし、きっともう絶対自殺とかしないね、サイコーの一ピースがあれば、全部サイコーになるもん、だってさ、映画は何回でも見えるんだよ、何度でも映せる。それにこの家暗いからさ、映画がよく映るんだよ。あぁーどきどきしてきたぁ。

 

   姉の心音高まる。

   やがてそれは嫁の心音になり、

   止まる。

 

 

兄 ・・・・。

姉 歩きなよ兄上。撮ってるから。

 

   兄、ぐるぐる歩く。

 

姉 もっとさぁ、激情込めて、好きに歩いて、いいよ、暴れろよ、ダメな感じ出てる、すっごいダメだよ兄上、すっごいいい、ロック! これがロックだよ。パリコレなんてぶっ飛ばせ!

兄 わかんねぇよ、どうなってんだよ、なぁ、なんでだよ、なんでさ、好きだぁ、好きなのに! しにたい、しにたい! しにたい!

姉 いいよ、最高だよ。音楽つけたげる。いいね、すっげぇわかるよ兄上。

兄 お前にはわかんないよ。

姉 わかるよ! 映画監督だもん。

兄 あぁぁぁぁー。

姉 骨壺、壷割ろう、いま割ったら凄いロックだよ。

兄 わんねぇー。

姉 割れよ! 捨てろ! 大丈夫だよ。あの人は大丈夫だったよずっと、ずっと、仕合せだったよ。

兄 わかんねぇだろ! なぁ適当なこと言うなよ、頼むから。殴っちゃうよ。

姉 殴れよ、あたしも、殴る。

兄 なぐんねぇよ。愛してるもん!

姉 そうだよ、兄上、愛してる! 泣けてきた。最高に、鬱だっ!

 

   弟、荷物を持って、登場。

 

弟 ちょっと、何してんの!

姉 生きてんだよ! (殴り掛かってもいい)しねっ!

弟 え、ちょやめて、

姉 うるさい、お前も踊れ。

弟 あれ踊りなの?

兄 うるさい、日本酒もってこい。

姉 日本酒なんて飲むな! 米なんか捨てろ! ライスシャワーだ。おめでとう! 行くよ!

 

 

姉 ねぇ、

斉藤 え?

姉 今何考えてんの?

斉藤 なに? え、あー。今はかなり、何も考えてなかったね。

姉 へぇ。

斉藤 なによ、

姉 いや、知りたかっただけ。

斉藤 いろいろ考えてるからね。今凄く色んなこと考えてるし。そういう顔してるでしょ。でしょ?

 

姉 ねぇ赤穂ちゃん。

赤穂浪士 なんですか?

姉 ほんとに、カメラに写るんだね。

 

   赤穂浪士、ピースマーク。

 

姉 成仏したい?

赤穂浪士 あたりまえじゃないすか。

姉 行こう。

赤穂浪士 どこに?

姉 色んなとこ行こう。

赤穂浪士 そういうのって、

姉 ごちゃごちゃ言わないで、あんまり考えないほうがいいと思う。

赤穂浪士 でも、

姉 つくづく成仏向きじゃないよねぇ。

赤穂浪士 あなたも。

姉 だめだ、やめようやめよう、気が狂っちゃう。暗いの終わり。今のあたしたちには強い味方がいる。

赤穂浪士 え?

姉 斉藤!

斉藤 なによ?

姉 一緒に行こう。

斉藤 なに? なになに? あたしが必要? 重要?

姉 じゅうよう!

斉藤 ふっふっふ、仕方ないなぁ、報酬は?

姉 フェイム!

斉藤 乗った。

 

姉 旅に出た。

歩く歩く歩く。

筋肉は日々レベルアップ。

最近、足が長くなった。

そうとしか思えない。

一日の飛距離が伸びている。影の長さも長く、

わたしはいつか巨人となる。この世界を支配する。

その証拠に、8ミリに移る光景はミニチュアみたい、

私は今日も世界を少しずつ支配している。

  

お気に入りの風景に、音楽をつけてみる、

映画の始まりなんて知らない、けれど、

あたしが今やってることは、すごくすごく発明だと思う、

あたしにははっきりと才能がある、生きていく才能が。

 

   闇に浮かぶ手紙。

 

 

姉 弟から手紙が来た。やつは、太陽の国へ行くといって、南米に消えた。いつから少しだけ面白くなったのだろう、姉の知らないところで生意気だ。

   

   写真が同封されている。

   野菜の画像。弟の結婚相手の画像。

 

 

   手紙が爆発、完全に消滅する。

 

斉藤 フェイムもいいけど、お腹は減るね。

赤穂浪士 あたしを見ないでください。

姉 あたしもちょっと気になってたんだ。どうやって食べる?

赤穂浪士 えーーー!

斉藤 バーベキューがおすすめ。

姉 朝日が昇るか、昇らないぐらいの海辺でね。

斉藤 いいねー。

姉 でも、とりあえず、今日はここまで、カット。

                          おしまい